経理における外注化と内製化

世の中不思議なもので、コアな業務に集中しようという方向性での外注化と、コスト削減したいという方向性からの内製化と、二つの相反する事象が、同じ会社の中で共存します。

この使い分けをうまくできるようになると「アイツは会社の経営に対して大きな貢献をしている」ということでグッと昇進や出世が近づきますが、うまくできない場合「アイツはまったく空気の読めない提案をする」というように、評価が真逆になります。今回は、経理視点から見た、内製化と外注化を使い分ける方法について学びましょう。

外注化は「高度技術型」と「時間削減型」の二つに分かれる。

外注化には、高度な技術や知識が必要で社内できないものを出す「高度技術型」と、簡単で面倒なものを安いコストで外に出す「コスト削減型」との二つがあります。例えば、弁護士と顧問契約を締結して、危なっかしい契約書をチェックしてもらうというのは「高度技術型」で、トイレの掃除をしてもらったりするのは「時間削減型」になります。

その外注化が高度技術型か時間削減型かは、会社の状況により異なる。

例えば、印紙税の課税要否判断ってわかりますか?100万円以下の請負契約書であれば200円で、継続取引の取引基本契約書なら4000円とかいうアレです。

この判断、印紙税法を理解している人にとっては簡単な仕事ですが、初めての人が対応すると、判断がややこしいこともあり、ソコソコ面倒です。

こういう仕事については、小さい会社(例えば第4階層の会社)だと、月に2回くらいくる顧問税理士にお願いして網羅的にチェックしてもらおう、ということになります。これは、高度技術型です。

ところが、もう少し大きい会社(例えば、第1階層や第2階層の会社)だと、印紙税がかからないように頑張ってもせいぜい数万円程度だし、もう経理でチェックするのも面倒だから、外注に出しちゃおうか、ということが起きます。これは明らかに「時間節約型」の考え方です。

(※そもそも経理の各階層が何かを忘れてしまった方はこちらの記事をご覧ください)。

こういう会社では、それまで社内で対応していたので、「海外の子会社と契約書を締結するときは、最後サインを現地にやらせる(又は、やらせたことにする)こと」というような印紙税節約のノウハウが、ある程度、既に社内にあります。そのうえで、粛々とルールに基づいて判断する部分については、もう面倒なだけで、経理が時間を掛けて対応する意味がないので外に出してしまおうという判断が行われます。

このように、同じ仕事でも、同じ会社の中であっても、外注化され、内製化されという時間軸の中で位置づけが変わってくることがあります。したがって、外注化を判断するうえでは、「その仕事は今の会社にとって、どの程度の難易度で、どの程度の価値があるのか?」ということをよく認識しながら考えると良いでしょう。

内製化は「高度技術型」の取り込みか、「時間・コスト削減型」の取り込みかのいずれか。

一方、内製化については、ちょうど外注化の反対で、「高度技術型」を社内で対応するようにするか、「時間・コスト削減型」を社内で対応するかのいずれかになります。シンプルですね。

「高度技術型」の取り込みによる内製化は、スキルアップにつながる。

「高度技術型」の取り込みによる内製化は、経理担当者としてのスキルアップにもつながります。例えば、今までは法人税や消費税の申告書作成を税理士にお願いしていたのを、社内で作るようにする、というようなものがこれに当たります。法人税の申告書なんて、一部上場の大企業でも作成担当が一人しかいなかったりしますので、この手の内製化は、経理職としての個人の市場価値改善につながります。時間が許す限り、積極的に対応すると良いでしょう。

「時間・コスト削減型」の取り込みによる内製化は、メリットなし。

さて、一方で、時間・コスト削減型の取り込みによる内製化は、我々経理屋にとっては、あまりメリットがありません。なぜならその仕事は、その会社にとって、社内リソースで対応する必要性がないものとして定義された「付加価値の低い仕事」だからです。

経理職の仕事で考えるならば、例えばこんなイメージでしょうか。

今までは、営業から回ってくる旅費や立替金の精算をパートさんにお願いしていたけれども、来週からは社員でやってね。みたいな感じです。リーマンショック後に「派遣切り」が流行したころは、多くの会社でこのようなことが起きました。

パートさんにお願いできる、ということは、それだけ仕事が標準化されているということです。パートさんが一人しかいなくて、生き字引みたいになっているケースもありますが、まあそれはレアケースです。それを、社員でやれという話になると、ちょっと嫌だなあという感じがしますよね。チェックはしてもいいけど、自分で打たなきゃいけませんか?みたいな。

この程度で済めばいいですが、ひどい例になると、こんなのもあります。

今まではトイレの掃除を業者にお願いしていましたが、これからは、当番制にして月に1回トイレ掃除をしてもらうことにします、とか。今までは工場のまわりの芝刈りや草むしりを業者にお願いしていたけれども、当番制にします、とかね。完全に雑務ですよ、これは。

「時間・コスト削減型」の取り込みによる内製化は、待遇悪化の予兆。転職の準備を開始せよ。

日本では雇用契約を盾に従業員に何をさせても良いと考えている経営者が多いので、上に挙げたような事象が割と頻繁に発生します。海外なら本格的に訴訟に発展しかねない話です。

職務経歴書に、月1回のトイレ掃除なんて書けません。ということは、その仕事は、少なくとも転職市場では一切評価されず、キャリア形成に一切寄与しないということを意味します。「社会人5年目までは普通に経理の仕事をしていまして、6年目からはトイレ掃除もやるようになりました」って人採用しますか?しませんよね?

急に朝礼で明日から月に一回芝刈りを手伝ってくれとか、そんなことが発表されたら、これは賞与が削減される日も近いぞと考えて、私ならとりあえずリクナビNEXTに登録します。

外注化するか内製化するかは、会社の状況を見ながら提案すること。

では、ケーススタディです。会社の業績が悪くなってきて、社内で暇そうな人が増えてきました。このままだと余剰人員を抱えてしまうかもしれません。さあ、どうしますか?

人手が余っているのであれば、現在外注に出している仕事を社内に取り込めば良いという判断があります。一方、社員を雇っているのは高くつくので、人を減らして派遣社員やパートなどに対応してもらおうという外注化も考えられます。

ポイントは、「自由に社員を減らせる会社かどうか?」です。いま働いている会社が、組合が強くて簡単に人を減らすことができないのであれば、取り込み型で対応する提案の方がウケは良いでしょう。ただ、あなたがもしCFOで、早期に業績を回復しなければ自分のクビに関わるのであれば、リストラをしてパートタイマーに切り替えるなどの対応でV字回復を狙う方が良いでしょう。

一度外注に出して、その後社内で内製化するとウケが良い。

さて、せっかくなので、どういう風に対応すれば経理として外注化を使って効率良く成果を出せるかという点についてもお伝えしておきましょう。

まずは、何か新しい事象が発生して対応が必要になったときには、一度、外部の専門家に対応をお願いします。社内的には、できるだけ針小棒大に、これは大変だとオオゴトにしてくださいね。笑

そして、やり方を教えてもらってから、次回同じことが起きたら自分で対応するようにしましょう。例えば、いま法人税の申告書作成を税理士にお願いしていたとしたら、次回から自分でやるようにするから、とか。

こうすると、「去年まで外注化していていくらのお金が掛かっていたのに、社内でできるようになってコスト削減ができた!」という説明が可能です。これは、社内外に説明しやすいんですよ。経理みたいなコストセンターができることはコスト削減くらいなので、「ルールが変わってこれをやらないといけなくなった」ということで予算を取っておきながら、翌期からは自分でできるようにしましたということでコスト削減を達成というのは、良いシナリオじゃないですか。笑

もちろん、いちいち外注したり内製したりと、そんなことしなくとも、最初から自分で対応できてしまうこともあります。ただ、それは、世間一般で行われているやり方から乖離した「俺流のやり方」になってしまう可能性がありますので、チャンスが2回以上あるならば、一度外注に出して、正しい型を理解してから内製化して実務経験を積む方がオススメです。

ちなみに、チャンスが1回しかないときも、少しお金を払って外部の協力を得ながらやった方が良いですよ。「自分、出来ます!頑張ります!」って言ってモタモタして失敗すると、そこそこ大きなマイナスが付きますので。あなたにマイナスが付かなくても、あなたの上司にマイナスが付いたら、良い仕事をさせてもらえなくなりますからね。

投稿者:

白賀

30代。 経理職で転職を繰り返し、現在某社でファイナンスを担当しながら、非上場のスタートアップ会社でCFOを勤めています。

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