管理会計で出世を狙う前に知っておいて欲しいこと

我々が健康診断を受けて、血圧とかコレステロール値とか、気になる項目が前年と比べてどうだったかを気にするように、会社も定期的に指標を追いかけることで、健全な経営を維持することができます。これが、管理会計です。

管理会計をうまく使いこなせるかどうかで経理としての個人の評価や昇進、出世のみならず、部署全体の立ち位置にも大きく影響を与えますので、まずは、管理会計の構造をよく理解しておきましょう。

継続的に管理指標を見るからこそ、見えてくるものがある。

我々の健康診断は、年に一度ですが、会社の健康診断である管理会計は、月次ベースで何かしらの数値の推移を見ていくというのが、その基本です。(誰か私の悪玉コレステロールを下げる方法を知っていたら教えてください)

さて、経理において管理会計を実施する場合の実務上の対応は、以下の流れです。

  1. 継続的に記録して基礎情報を集める。
  2. 収集した情報と、会社にとって良い状況・悪い状況との関連性を確認する。
  3. 必要に応じてデータ加工して指標を作成し、同様に会社の状況との関連性を確認する。
  4. これら指標の推移を見ながら施策を検討し、実施する。
  5. 施策の結果を指標の変化と実感とで確認する。

これらの管理指標のことをKPI(Key Performance Indicatorの略)と言うことがあります。知識として知っておいていただく分にはおおいに結構ですが、職務経歴書で使ったり、面接で言ったりするのはやめおきましょう。理由はまた別の記事で書きます。

管理会計には、二つの段階(フェーズ)がある。

世間では、よくPDCA(Plan Do Check Action)とかPlan Do Seeとか言いますけれども、管理会計を進めていくうえでは、二つのPDCAを回していく必要があります。

一つ目のPDCAは、1から3の部分です。

  • 継続的に記録して基礎情報を集める。
  • 収集した情報と、会社にとって良い状況・悪い状況との関連性を確認する。
  • 必要に応じてデータ加工して指標を作成し、同様に会社の状況との関連性を確認する。

まず、持っている情報と持っていない情報を明らかにして、簡単に取れるものと取れないものを認識し、どの問題の解決に使えそうかを考える部分です。そのうえで、何を継続的に記録すべきかを考える部分です。ここが、管理会計の要です。ここさえできれば、あとは流しみたいなもんです。

そして二つ目のPDCAが、その数字を追いかけながら施策を打って検証する4から5の部分です。

  • これら指標の推移を見ながら施策を検討し、実施する。
  • 施策の結果を指標の変化と実感とで確認する。

ここは、「〇〇という施策を打って、〇〇を50%改善しました」のような形で表に出てくる部分なので、管理会計の花形的なイメージがあります。(イメージって言うのは、皮肉ですからね)

分析の元となる材料がなければ、管理会計を行おうにも、話が前に進まない。

話を第1フェーズに戻します。

これから管理会計を進めていこうとした場合に、手元にある資料が財務諸表だけ、つまり、PLとBSしかない、ということがあります。それどころか、小さい会社では、日次・月次で確認しているのは、現預金の残高だけなんていう、恐ろしいこともあり得ます。このレベルだと、管理会計以前に、まずは毎月の財務諸表を作りましょう、というのがスタートになります。

でも、現実には、さあ管理会計を始めようと思っても、使えそうな資料が、本当に財務諸表くらいしかないということは十分あり得ます。経理で継続的に見ることができる指標が、ROA(総資本利益率)やROE(株主資本利益率)くらいしかない、という状態です。

これらは、会社全体の通知表の一項目としては使えますが、何かアクションを起こすには、大きすぎます。事業部単位や、商品単位くらいで見たいところです。(ちなみに、ROEを事業部単位で出せる会社は、かなり先進的な会社です。)

ほかには、在庫回転日数や売掛金回転日数くらいは割と簡単に出せるかもしれませんが、これも少し大きすぎます。と言うかこのくらいしかないとなると、資金効率や投資効率などの話になってしまうので、使えるシーンが非常に限定的です。キャッシュフロー至上主義者になってしまいます。

より儲かる会社にという意味で考えると、使えそうなのは、粗利率くらいのものです。それでもやや大雑把過ぎます。中小のソフトウェア会社やシステムベンダーで、きちんとプロジェクト別の粗利を出せているところ、どれだけあるでしょうか?中小のメーカーで、毎月の粗利率を出せているところ、どれだけあるでしょうか?

というか、全社レベルの粗利率とか、在庫回転日数とかだと、それはもはや管理会計ではなく、ただの基本的な財務分析です。「そろそろ何か新規事業を始めても良い時期です」とか「全社的に効率が悪くなってきています」とか言われても、「そんなこと言われなくても知ってるわ!」と怒られそうです。

管理会計の材料不足を解消するためには、誰かの手間が、必ず発生する。

これです。これが、管理会計のキモの部分です。

最初のステップである基礎情報の部分が不足している場合、基礎情報を充実させようとすると、誰かがそれをインプットしなければならないんです。これは、純粋な手間の増加です。自部署でやるだけなら簡単ですが、他部署にお願いするとなった場合に、「なんでコストセンターの経理の依頼でやんなきゃいけねーんだよ、面倒くせえ」になりがちです。これが起きないようにするのは、とても大変です。だって、完全にやらされ仕事ですから。私だって、誰だか知らん奴に明日から毎日朝起きた時間を教えてくれとか言われたら面倒くさくてたまりません。(経理が営業の人とかに言うことって、このくらい仕事と関係なさそうに聞こえていることがありますので注意してください。笑)

情報を出してあげたのに裏切られると、さらに情報を取りにくくなる。

「旅費交通費が増えている割には、売上が伸びていないので、出張の効率が落ちています」とか言われて、もし自分が営業だったら、むちゃくちゃウザくないですか?うるせーよ、訪問しないと売れねーんだよ!って気になりますよね。

だから、経理がこんな数字を出してほしいとお願いされても、快く出してもらえないことがあります。出した結果、その部門の問題点を経営会議で指摘された、なんてことになると、飼い犬に手を噛まれたも同然で、そんな経験をすると、さらに情報を取りにくくなります。

会社には、アクセルを踏む役だけではなく、ブレーキを踏む役も必要。

でも、経理だって、アイツを懲らしめてやれと思ってわざわざ言っているわけではないんです。会社を良くするために言わざるを得ないことをあえて言う、そういう日常的な嫌われ役も買って出ないといけないんです。

階段には必ず踊り場があるように、一気に駆け上がるのではなく、様子を見ながら、正しい方向に進んでいるかを確認しながら進めていくことが重要です。オーナー企業で、迅速な意思決定で一気に会社を大きくするケースもありますが、普通の人は真似できません。そうすると、経理は、基本的にはブレーキを踏む側にまわることが多いわけです、役割として。ただ、そのあたり、なかなか周りの人にはわかってもらえない難しさが経理にはあります。

社長や経営陣への報告時にあえて炎上させて、協力を仰ぐという作戦もアリ。

そんなときは、政治力を使うこともひとつの方法です。どこそこの部署のこのあたりが悪そうです、という情報で、一度大きな雷を落とさせて、その後「今後、このような問題にできるだけ早く気づくことができるように、今後は、管理項目としてこの情報を基礎数値として持てるようにしたいと考えています。全社的に少し手間がかかってしまいますがよろしいでしょうか。」という話をするわけです。こうすると、炎上した部分については、かなり情報を取りやすくなります。

まだ見えていない問題への対応は、費用対効果を示せないので、手間をかけにくい。

ところが、まだ発生していない問題を解決するためにはこのようなデータがあった方が良い、という提案に対しては、費用対効果という大きな壁が立ちはだかります。上の方で、事業部別にROEを出せる会社は先進的、ということを書きました。例えば、これができる会社は、収益性が悪い傍流の事業を売却して、本業に近い部分の会社を買収する、という選択肢を、他社よりより早期に検討し得るわけです。でも、これって、雲をつかむような、あるかないかすらも不明な仮定の話です。したがって、そもそもそういうことが起きなくて済むように、利益を増やす方向で努力しようよという方向に向かいがちです。

特に、設立以来順調に成長を続けていた会社については、管理会計のツールが少ないことが多いです。必要に迫られていないので、今の時点では、いらないんです。一方で、例えばオイルショックとかでひどい目にあったことがあるような会社は、ビックリするくらい先進的な管理会計の仕組みを持っていたりします。こういう会社に経理として配属された人は、非常にラッキーです。社内外でどんなことが起きると、数値がどのように変化していくかというのを良く見ておくと良いと思います。

トップダウンの導入でなければ進まないことも多いため、入念な根回しを。

さて、ここまで書いてきたように、管理会計には、その会社の考え方や段階に応じて段階があります。必要に応じて、手法を追加していくという考え方が必要で、導入に当たっては、外圧やマネジメントレベルからの一声が必要になることも多いです。なので、経理から出てくる数字や意見は、経営に役に立つことが多い、という認識を持ってもらう。それは、言葉を変えれば、管理会計の重要性を伝えていく活動が必要になるということを意味します。

信頼される経営参謀になるには、事業だけでなく、経営についても学んでおくと良い。

先ほど、「旅費交通費が増えている割には、売上が伸びていないので、出張の効率が落ちています」という例を書きました。これって、本当は、いま訪問するべきではない会社に無理矢理訪問してしまっているだけで、本当は、もっと広告とかでうまく認知度を上げてから訪問するべきかもしれませんよね?それって、末端の営業担当からはなかなか申し上げにくいことですよね?だから、この手の問題は、表に出てこないことがあります。

こういうことを言ってあげられるようになるためには、経理の勉強だけではなく、ビジネスの勉強もしておくことが求められます。つくづく大変な稼業ですよね、経理って。でも、こういう泥臭い根回しとかもできるようになると、フィナンシャルコントローラーとか、そういう職種へも転職先として幅が広がるようになりますので頑張りましょう。

投稿者:

白賀

30代。 経理職で転職を繰り返し、現在某社でファイナンスを担当しながら、非上場のスタートアップ会社でCFOを勤めています。

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