経理としてチャレンジできるスキルを身に付ける

今日は、昨今話題のチャレンジについて考えてみましょう。

チャレンジは、経理職で生きていくうえでは切っても切れない関係の、とても重要なスキルです。合理的な範囲内でこれをうまくできるようになると、経理職として生き残るにしても、転職するにしても非常に役に立ちます。

ただ、いつでもチャレンジできるくらいのスキルを身に付けると良いですよと言っているだけで、粉飾自体には手を染めちゃダメですからね。笑

会計処理は、一つではなく、合理的な選択肢のなかから選べる

さて、実務を担当されている方はよくご存じかと思いますが、特定の事象に対して、どういう会計処理をするか、というのは、必ずしも一つに限られているわけではありません。特に引当金や評価損の類など、見積りが絡む部分ではこの傾向が強いです。基準自体は、汎用性を持たせるためにある程度モヤッとした表現になっています。したがって、我々は、合理的な処理の範囲内から会計処理を選ぶことができます。当然、処理が違えば、計算される利益も変わります。

複数の会計処理の選択肢を持っていることが、経理の腕の見せ所になる。

予算管理が厳しい会社や、投資家の声が強くて経営陣が業績に対してコミットさせられている会社の場合、「最終的な損益はこのくらいにしてもらわないと困る!」とか「翌期は悪くなりそうだから、もう少し今期は抑えておけないか?」という相談が頻繁に生じます。だいたい、経営企画的な部署を統括する役員から話が出てきます。

このとき、この処理をこの方法にすると今期の費用が少なめに出るとか、この部分に引当を積んでおけば翌期に利益を先送りできる、という選択肢を事前に用意できている経理は、とても優秀です。なぜなら、そういう人は、会計基準を良くわかっていてどのレベルなら合理的な範囲内かということを理解しています。そして、利益操作ができるかもしれないような社内の事象についてもよく把握できているからです。

チャレンジは習慣化されるが、当事者はいなくなる。

「今期はプラスは2億円、マイナスなら3億円までは動かせます」

こういう話に、経営陣が頻繁に乗るようになってくると、その会社はもう、悪魔と取引をしてしまったようなもので、このまま業績が改善しなければ、粉飾決算まっしぐらです。

とは言え、この時点では、本人はまだ粉飾という認識はありません。なぜなら、最初にこういうことを始める人は、そのときどきの会社の規模や利益水準からして、ここまでは合理的ということをわかったうえでやっているからです。繰り返しになりますが、こういうことを考え始める人は、優秀なんです。

ところが、そういう人は、会社が傾いてきたら節操なくその会社から逃げ出します。あるいは、優秀なので危なくなる前に、他の部署に行ってしまいます。まさにその指示を出してくる側の経営企画系の部署とかに逃げ込みます。笑

チャレンジは、粉飾決算に進化する。

そうして、残された人は、「最後は経理がなんとかしてくれるんじゃないか」という経営陣の期待に応え続けなければならない、という強いプレッシャーの中で働き続けることになります。この状況は、かなりブラックです。良い方法が思いつかない(場合によっては、良い方法が存在しない)のに、前任ができたからということで期待され続けます。ここからが本格的な粉飾決算のスタートです。

今からでは遅いと思いますが、○芝の経理の中にも、かなりお化粧が上手な人がいたはずです。経理の中途採用でそういうのが得意な人を取りたい経営者の方は、探してみてはいかがでしょうか。私自身も、元・○芝の某コーポレート的な部門で仕事をしてきた人と一緒に仕事することがありますが、逃げ出してきただけあってものすごく優秀です。オススメです。元○芝。

チャレンジは、決算数値を動かすことだけではない。

チャレンジ内容は、決算数値を動かすことだけではありません。なんであれ、都合の悪いことを隠すことさえできれば、それらは全てチャレンジ対象です。

例えば、いまひとつパッとしない工場があったとします。まだ減損されるレベルではないとしましょうか。今期にその工場の一部のラインを除却するとします。この会社では、除却損自体は比較的よくある話なので、営業外費用でいけるかもしれません。ただ、このままだと金額が大きくなって、固定資産除却損が開示されてしまうかもしれない。それだけは避けたい。さあ、あなたならどうしますか?

決裁書上の理由をちょっとだけ変えてみるというチャレンジ。

そんなときは、工場の責任者に聞きます。「このラインを潰して、機械装置一式も完全に捨てちゃうんですか?他のラインに使えそうな部分があれば、取っておきません?」『うーん、機械自体は使えるからねぇ。』「では、廃棄するのは半分くらいにして、決裁書上は、残りは用途変更にしておきましょうか。」こうして、ラインの設備一式の除却損は、半分は用途変更で耐用年数が短くなったことによる臨時償却ということで決着しました。これで、除却損は総額の20%を切ったので、無事「その他」に隠せることになりました。めでたしめでたし。

ホントは報告セグメントだけど、セグメントじゃないやい!というチャレンジ

他には、こんな例もあります。

マネジメントアプローチってわかりますか?取締役会とか事業評価会みたいな経営陣レベルに対して報告を上げる事業の括り(セグメント)で、その損益状況を投資家にも開示しましょうという制度です。会社によって事業部単位だったり、地域だったり、特定事業の会社群だったり、さまざまな切り口があります。

こんなのハッキリ言ってチャレンジだらけです。むしろ、チャレンジしてない会社なんて、ないと思いますよ。この事業(または地域)は、これから伸びると思っていて先行投資を続けているけれどもまだ結果が出ていないので、今の状態では表に出せないなんて、よくある話です。表に出してわざわざ投資家に説明したいなんて会社、絶対ないです。何かしら理由をつけて隠します。この事業はあの取締役が見ているので、その取締役管轄の別の事業の一部ということにしちゃうとか。別のモノサシを無理やり持ってきて、その基準では別のくくりになるんですと言いきっちゃうとか。こんなの日常茶飯事です。

逃げ道をたくさん思いつく経理屋は、重宝される。社内の経理の立場も改善される。

そんなわけで、経営的に隠したい部分を隠すためには、経理の進言が役に立つことがあります。こんなことが続いてくると、経理の立場は少しずつ強くなっていきます。余計な開示が出ては困るから、全ての決裁書を経理に回してくれと言い始めてみたり、この表現は変えておかないと後で会計士からいろいろ突っ込まれますよと、決裁書の表現を変えさせてみたり。そんなことをしているうちに、経理の社内での権力が少しずつ強化されていくわけです。

居心地は悪くないが、給料は悪い。そう感じたら、転職の契機です。

こうして、プチチャレンジを続けていくうちに、経理の社内のプレゼンスが改善されていきます。ただ、そんなチャレンジを続けていても利益はあがりません。そりゃそうですよね。だから、給与はある程度で頭打ちになります。

なんだかスキルは上がったはずなのに給与が上がらないなと感じ始めたら、経理職として自分が転職市場でどれだけ市場価値があるかを考え始める時期です。リクナビNEXTでも何でもいいですが、MIIDASあたりでまずは市場価値だけでも確認してみると良いでしょう。あれこれチャレンジするためには、細かいルールの部分を詳しく知ってないとできませんので、きっと良い仕事が見つかるはずです。

投稿者:

白賀

30代。 経理職で転職を繰り返し、現在某社でファイナンスを担当しながら、非上場のスタートアップ会社でCFOを勤めています。

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