中途採用は投資意思決定である

突然ですが、みなさん、人を一人採用するとどのくらいのコストがかかるかご存知でしょうか?

人の採用は、投資案件と同じ。投資効果に見合う人材が、採用される

中途でも新卒でも、人を採用するのって、結構な規模の投資なんです。毎年のフローで考えると、毎年1000万円くらいで済めば御の字ですが、長く勤めることまで想定すると、億単位の投資案件です。
人を採ると、社会保険料がかかったり、年金が発生したり、その人用のPCを買わなきゃいけなかったり、デスクや電話も用意しなきゃいけないし、その人の給与も毎月計算しなきゃいけない。その人に仕事を教える人も必要だし、その人を管理する人も必要です。さらに、採用した人がどうしようもなく使えない人だったら、最悪の場合、もう一人採用する必要が生じます。このように、直接発生する人件費以外に、結構金がかかります。先ほど、1000万円って書きましたけど、これ、結構控えめな数字です。このサイトをわざわざ見にくるくらいの皆様を中途採用で雇おうとする転職先の会社側のコストは、1000万円では収まらないはずです。
試しに、EDINETで有価証券報告書の単体の従業員数(「従業員の状況」というところにあります。EDINETの使い方を忘れてしまった方は、以前の記事「EDINETに掲載される開示書類とその内容を把握する」をご覧ください。)と、財務諸表の人件費や賃借料などの金額を足し上げて割ってみてください。結構簡単に1000万円に届きます。
さて、こんな具合で、人を採るというのは、結構な額の投資活動です。したがって、とにかく、その投資効果に見合う良い人を採りたいんです。ここまでは当たり前の話ですね。
例えば、あなたが会社の社長だとして、これから1億円の投資をしようと考えたとき、何を考えるでしょうか。費用対効果が見合うかどうかをまず必ず考えますよね。
これが、機械装置などの設備なら話は比較的シンプルです。商品のマーケットの需要がどのくらいあって、この機械を入れるとどのくらい生産量が増えるから、このくらいの値段で売れるならこのくらいの期間で回収できるぞとか、そういう話を考えるはずです。

中途採用の費用対効果の測りやすさは、採用する職種により異なる。

ところが、これが、人を採用しようという話になると、急に話が漠然とし始めます。なぜなら、費用対効果が非常にわかりにくいからです。
販売系の人材なら、良い人を採用してうまく育てば年間3000万円の売上が上がるぞとか、比較的わかりやすい費用対効果を出すことができます。
しかし、特に管理系の人材を採用するときの費用対効果の計算は、非常に困難です。だって、パフォーマンスがハッキリしないですから。外注した時の費用と比較して採用を決めることもありますが、「派遣社員を引っ張っていくような中堅は、社員で用意しておいた方がいいかな」とか、「松下幸之助は経理が大事だって言ってたっけ」とか、比較的費用対効果とは別の、いい加減な基準で、人の採用だけが決まったりします。
もちろん、経営者の想いとしては、経理的な考え方がとかコスト意識とかを社員に植え込んでいく(将来的に筋肉質な会社にしていく)ためには、派遣社員では事足りず、正社員で雇う方が良いという考えや、そのための先行投資という考えがあってのことですが、基本的にその費用は、「純粋なコスト」として認識されます。

経理の中途採用の失敗は取り返しがつきにくく、採用の判断は慎重になる。

以前の記事「経理職の転職には、回数制限と年齢制限がある」でも少し書きましたが、経理部門が保守的になる背景として、そもそもミスの絶対量が少なく、うっかりミスをしようものなら命取りになりかねないという事情があります。さて、これは、裏を返すと、多少パフォーマンスが悪くとも、例えば、あまり経理の常識を知らないとか、仕事が遅いとか、そういうパフォーマンスの悪さが多少あったとしても、クビにするほどには至らないということを意味します。簡単に言うと、「売れないからクビね」みたいな方法が経理では使いにくいんです。「クビね」というのは極端な例ですが、まあ、営業系はこういう追い込み方をしたりするじゃないですか。
一方、経理はどうかというと、パフォーマンスが悪いと出世は消えます。出世は消えるんですが、「出世はしなくても良いし、適当にやりつつも定年までなんとなく会社にしがみついてやればいいや」という人は、変な話、追い出しにくいんです。これ、採用の意思決定をしちゃった側はキツイですよ。まわりのマネージャーから「お前のとこ、変なヤツ採っちゃったな。笑」ってずーっと言われるんですよ。そういう人に限って、ホントなかなか辞めませんから。「あいつは人を見る目がないヤツだ」ということで、マネージャーの中でローパフォーマーの仲間入りしてしまう恐れがあるわけです。そりゃ、保守的になりますよね。
さて、上記のとおり、経理職は特に、採用プロセスにおける失敗が許されず、慎重な判断が必要になります。しかも、経理は、候補者の能力や経験など、簡単に判断ができるものが少ないという、能力の判断における難しさもあります。あれやったことあります、これやったことありますって言っても、前任が作ったものの数字を打ち変えたことがあるだけだったりすることが多々あります。それっぽいリアルな話で以て表面的に取り繕われた場合、能力の判断が難しいんです。第二新卒が通用するくらいの年齢であればポテンシャルで採用されることも可能ですが、30歳が近づくにつれ、どうしても慎重にならざるを得ません。
(残念ながら、悲しいことに、大企業ほど「つまらない仕事も大量にある」という状況ですので、採用を失敗しても「つまらない仕事をやらせて、昇進もさせずに飼い殺しにしておけばいつか辞めるだろう」が通用してしまうという実態があります。こうした会社では、採用の慎重さが下がる一方で、失敗したら切ればいいや的な、使い捨て的なブラック化が進行しています。この部分は、まだまだ書き足りない部分がありますが、以前投稿した「ブラック化が進む経理職で生き残るための方法」なども、ご参考にしてください。もう、大企業ほどブラック化する要素だらけでして、ブラック化すべくしてブラック化が進んでいるというのが実態です。)
ちょっと長くなってきたので、次回の記事に続きます。次回は、このような不確定要素が多い中途採用という投資意思決定で、戦略的に採用を勝ち取るためのポイントについて記載したいと思います。

投稿者:

白賀

30代。 経理職で転職を繰り返し、現在某社でファイナンスを担当しながら、非上場のスタートアップ会社でCFOを勤めています。

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