管理会計についての記事が続いていますので、管理会計で転職を成功させるための面接での技術についても合わせて学んでおきましょう。対象は、第1階層~第2階層くらいの経理職の人で、経理屋としてキャリアのうち、それなりの時間を管理会計に費やしてきた方です。管理会計については勉強したので、次こそ管理会計を担当してみたいという人も、一応対象となります。
管理会計を、あまり押し売りしない。あまりに食いつきが良い場合も要注意。
管理会計というのは、第1階層の経理屋としては重要なスキルなのですが、管理会計を全面に出して面接でアピールするのは推奨しません。なぜなら、管理会計ほど会社間での前提条件が違うものはないので、再現性が低く、期待通りのパフォーマンスを出せない可能性が高いからです。
逆に、管理会計の話をして、目をキラキラさせてくる面接官がいたら、管理会計に過剰な夢を抱き過ぎている面接官である可能性があるので注意が必要です。そうした面接官は「会社によって管理会計ができる土壌が全然違う」という管理会計の常識をあまり知らない人、つまり、その会社の管理会計のレベルはその程度、と考えることができます。「そんなに面倒ならやらなくて良いよ」と入社後に手のひらを返されても困りますからね。
管理会計は、百社百様。ある程度合理性があれば、適当なことを言っても裏取りは難しい。
管理会計のネタとしてどういう話をすべきか(どんな指標を使って/作って、どんなことをしたか?)については、前回までの記事を参考にしていただけば良いですが、リアルさが感じられる話であれば、何でもOKです。「イメージしているようなスマートな仕事ではなく、想像以上に人間くさい」というポイントを押さえていればどんな話でもOKです。
私がこう言い切ってしまうのは、会社によって、状況が違うので、何が大事になるかが全然違うからです。
例えばそうですね、私が大好きな建設業で説明してみましょうか。
この業界、元請けや一次請け、二次請けの会社との関係で「次のプロジェクトでは余計につけていいから今回はこの予算で頑張ってよ」みたいなプロジェクト単位での付け替えが頻発します。そんなことされたら、プロジェクト別で損益管理しても、実態が見えてこないので、全然意味がないですよね。
他には、例えば、建設業法上は工事完成後20日以内に検査をして検収を上げる義務が課されているんですけど、まあ、発注者側はなかなか検査してくれないんです。財布の都合だったり、理由はさまざまです。法律なんてただそこにあるだけで何の役にも立たないので、現実には、法律違反だなんだと騒ぐよりも、次のプロジェクトを失注するリスクの方が怖く、下請けはみな、当たり前のように涙を飲んで受け入れます。むしろ、法律違反になる状況の方がわかりやすくて良いくらいで、「工事完成通知はまだ出さないでね」という形に残らない圧力をかけられて、工事完成通知を出せないケースの方がメジャーかもしれません。自社側の工事完成が遅かっただけなので、もはや法律違反ですらない。この業界、こんな話が掃いて捨てるほどあります。こういう状況だと、資金化までの期間を確認して改善しようにも、実態が見えてきませんよね。
では、どうしましょう。例えば、正確なプロジェクト別の損益がわかるようにするために、社内上だけでも付け替えを戻せるようにしましょうか。あとは、早く検査をしてもらうためにゴニョゴニョする費用の目安を作るために、プロジェクト別に、完成が一日遅れるごとの金銭的損失を簡単に計算できるようにしておきましょうか。あ、ゴニョゴニョした費用は、税務上否認するケースと、謎のトンネル会社を通すことで損金算入できることの両方のケースがありますから、否認する方法でゴニョゴニョする場合は、税金分として3割増しの金額でプロジェクト損益にチャージされるようにしましょうか。
と、こんな具合で、あなたしか知らないような業界特有のマニアックな話をからめて話をすれば、それでもう十分です。私、いま、上の話を適当に書いてますけど、前提条件のいくつかが事実に基づいていれば、話としては、そこそこリアルに聞こえることがわかるかと思います。
とは言え、ある程度は管理会計あるあるについては知っておく方が良いので、ここはまた別の記事で少し解説しようと思います。
管理会計で押す場合は、面接で、どのような立場で働くことになるかを確認する。
「入社後、管理会計に本格的に取り組むことになった場合、私は、どのような立場でそれに取り組むことになりますか?」と聞いてみてください。
「まずはメンバーとして入社していただき、経理としての実務を積んでもらってから」というような解答が返ってきた場合は、注意が必要です。その会社が、管理会計で使うような基礎情報を大事にしていない場合は、入ると苦労します。社長直轄のプロジェクトなら鶴の一声で進むこともありますが、メンバーで入ってしまうと、まずは社内に味方を作ることから始めなければいけないので、かなり苦労することを覚悟して下さい。
仕事のイメージをつかむため、という理由で、管理会計についてのインフラを確認する。
「仕事のイメージをつかむためのご質問ですが、管理会計を行う場合、例えば人員数や使用面積、あるいは、サーバ使用量とか、特定の活動の履歴など、所管部署が経理ではなく、直接的に数値を取れない内容もあると思います。そういった内容の収集や加工は、現状、各部署に四半期単位で依頼して、後からExcelやAccessとかで配賦計算を行っているような形ですか?それとも毎月計算しているような形ですか?」。あまり先進的な事例で質問しないことがポイントです。あまり先進的な手法を説明し過ぎると、「うちはそこまで進んでいないので、ギャップが大き過ぎる」になる可能性があります。面接は接待みたいなものですから、まずは下から出てあげることも大事です。先進的な手法をしていそうな解答が出てきてから、先進的な手法をしているときの管理会計あるあるについて話をして盛り上げれば、こやつわかっているな、となるわけでありますよ。
質問への解答には、相手のレベル感が出るため注意深く確認する。
さきほどの質問に対して、「うちではデータは別で取れますけどね」というように、システムに既に入っていそうな回答であれば、管理会計を実施するための風土と仕組みが整っているという意味で、紛うことなき第1階層の会社です。おおいに頑張りましょう。
「四半期ではなく毎月ですが」というように毎月データを入手できているようであれば、管理会計を重視するための土壌はあるものと考えられます。
逆に、「四半期で取っている」ことに対して同調するような流れであれば、事後的な管理会計ということで、既存の経理の仕組みと管理会計の仕組みの適合度はあまりないと考えられます。さまざまな支払は毎月発生するわけですから、四半期単位なんて都合良いことは基本的にはありません。
四半期で取っている場合でも、「事前にもらっている」場合は、システム内での配賦比率の更新を3か月に1度としているだけかもしれませんので、それほど深刻ではありません。解答を濁らせるような場合は、どんぶり勘定か、それほど仕組みがないか、のいずれかです。
管理会計の仕組みがまだ入っていないが、儲かっていて勢いのある会社は、面白い。
ところで、管理会計の仕組みがあまり第2階層以上の会社って、なさそうで、一応あるんです。
売上が七難隠すような会社の場合、salesforceとか入れて営業管理をしっかりやる方が重要だったりします。そういう会社は、今のところは真面目に管理会計をやる必要性を感じずに経営を出来てきたということになります。
一方で、比較的新しい会社だと、管理部署のコストを減らすための仕組みだけはそれなりに高度にしているということもあります。こういう会社に転職すると、会社自体は伸びるので、将来良いポジションになれることが期待されます。その会社が儲かっていそうか儲かっていなさそうかという点くらいはエージェントに聞くなりTDBで調べるなりで確認してくださいね。そこは経理なんですから。