M&Aのプロセスを理解して転職活動を勝ち抜く

経理の中途採用は、採用者側にとって不確定要素が多い投資意思決定であるということ前回ご説明しました(参考記事「中途採用は投資意思決定である」)。

今日は、そんな不確定要素を含む投資意思決定時に使われる考え方をお伝えします。コンセプトは、採用者側の目線を理解して転職活動を成功させる、です。経理というよりはファイナンス的な分野に近いかもしれませんが、お付き合いください。

不確定要素の多い投資意思決定は、M&Aのプロセスに近似する。

前回の記事のとおり、中途採用は、全体的に、不確定要素が多い投資案件の意思決定です。不確定要素が多い投資案件の意思決定プロセスは、必然的に、M&Aのプロセスと近似します。なぜなら、M&Aのプロセスも、情報の非対称性があり、高額で、不確定要素が多いからです。要するに、取り扱う商材の特性が似ているんです。

さて、M&Aにおけるプロセスは、以下の通りです。案件の大小により、多少変わりますが、概ねこんなもんだと考えていただいて結構です。

  1. フィナンシャルアドバイザーの決定
  2. フィナンシャルアドバイザリー契約契約の締結
  3. 投資案件の抽出
  4. 匿名情報の入手・買収候補先との間接的なコンタクト
  5. ネームクリア、インフォメーションメモランダムの入手、意向表明書の提出
  6. 予備的バリュエーションの実施
  7. デューデリジェンスの実施
  8. 最終契約の締結・クロージング

随分カタカナが多いですが、それは、そういう業界だからです。カタカナが多い業界は、カタカナでクライアントを煙に巻いて高いフィーを取るというのが常套手段ですので覚えておいてくださいね。近年、M&Aコンサルティング関係の会社が非常に高年収になっていますが、まあ、そういうことです。笑

さて、多少話がそれましたが、以下、それぞれのプロセスで何が行われるかをご説明しますので、中途採用におけるプロセスとどこがどう似ているかを確認しながら読み進めてください。

1.フィナンシャルアドバイザー(FA)の決定

お手伝いをお願いする証券会社等の決定です。中途採用であれば、採用活動をお願いするコンサルタント等の決定です

2.フィナンシャルアドバイザリー契約(FA)契約の締結

案件探しから事業価値評価やクロージングにいたるまで、いろいろお手伝いお願いしますよという契約の締結です。中途採用においては、リクルー〇との契約だったり、日経キャ〇アだったり、JA〇リクルー〇だったり、インテ〇ジェンスだったりと、さまざまです。秘密保持契約を締結したり、報酬の決まり方が、成果報酬型だったりするところもピッタリです。

3.投資案件の抽出

ソーティング(Sorting)とも言います。買収対象会社はこんな会社が良いという条件を伝えて、探してくる手伝いをしてもらうプロセス。公開買い付け(TOBとかTender offer)の場合は社内で探してくることもあります。

中途採用であれば、こんな条件の転職希望者を探してほしいという依頼です。単体決算と連結決算を担当したことがあって、30歳くらいまでで転職回数は2回まで、とかそんな感じです。会社によっては、Linkedinとか使って自分で探すこともありますね。もう、偶然の一致とは思えない感じで似てますよね。

4.匿名情報の入手・買収候補先との間接的なコンタクト

条件を元に、フィナンシャルアドバイザーが抽出してきた会社や事業の匿名情報(ノンネーム資料)を入手します。事業を売りたい会社側も、同様にフィナンシャルアドバイザーを付けて売却先を探していますので、「社名非公開のままなら、ここまでの情報を渡して良いですよ」という依頼を出しているという背景があります。

さて、中途採用活動ではどうでしょうか。「あなたの氏名や勤務先名は、企業側には公開されません。」転職支援サイトに登録するとき、こんな表示がどこかに書いてありますね?同様に、裏側では企業側に対しても、「こんな人を見つけましたがおメガネにかないますでしょうか!」というような連絡が、営業担当から日々届いています。

一方で、みなさまの元に届く各種オファーでも、「社名非公開」というプライベートオファーがたまにあるかと思います。社名非公開にしたい理由はさまざまですが、まあ、だいたい資本金とか事業内容とかを参考に検索すれば、ほぼ正確にアタリはつきます。先日、と言ってももう3ヶ月くらい前ですが、私のところに「日本最大規模の政府系ファンドです」みたいなプライベートオファーが届きましたが、内容をみたらもう、どこからどうみても産業革■機構でした。隠すなら真面目に隠そうよという気もしますが、社名は隠したいけど効率良く採用活動を進めたいという採用サイドの思惑もありますので、なかなか難しいところです。このあたりの背景については、また別の記事で書きたいと思いますが、とにかく心がざわつきました。入ってみたかったな、産業●新機構。

5.ネームクリア、インフォメーションメモランダムの入手、意向表明書の提出(Letter of Intent)の提出

さて、ある程度具体的な話をするとなった場合、次は何をするでしょうか?匿名情報ではなく、もう少し詳しい情報が欲しくなります。M&Aのプロセスでは、この時点で秘密保持契約を締結し、もう少し詳細な情報を得ます、インフォメーションパッケージとか、インフォメーションメモランダムとか言います。順序は次に出てくる6「予備的バリュエーションの実施」と前後することがありますが、この時点で、事業/会社をお金で買うのか、株式で買うのかなどのざっくりしたストラクチャーのイメージや、会社全体を買いたいのか事業の一部を買いたいのかとか、そういう簡単な資料を出すこともあります。雇用は原則維持したいと思っていますなんてことも書いたりしますが、雇用の維持は、後から反故にされるケースも多いです。笑

中途採用なら、オープンオファーに対して、詳細な職務経歴書を見せたりというプロセスですね。書類選考をパスして面接まで一気に行きますよというようなプライベートオファーなんかは、これにすごく近いイメージですね。某ナビネクストとか見てるとよくありますよね、「規約に同意して面接を受ける」とか「規約に同意して求人に応募する」とかいうボタンが。それが、コレです。

6.予備的バリュエーションの実施

この時点で、ざっくりとした企業価値/事業価値のアタリを付けます。将来このくらい伸びるなら、いくらまで出してもいいか、とか、この部分はもう少し確認してみないとわからないな、とか。あるいは、この案件はやっぱりダメだ、というように案件を中断することもあります。

中途採用なら、この会社でこの経験なら悪くなさそうだよね、とか、いやいや意外とデカイ会社で業務が細分化されてて、幅広い知識はないかもよ、とか。カタカナが多いから自分大好き・プライド高めなタイプかもしれないね、とか、採用担当との間でそんな会話が行われます。

7.デューデリジェンスの実施

お互いの方向性がある程度揃ったら、デューデリジェンス(DDとかデューデリとか言います)を実施します。デューデリジェンスとは、「この会社、ホントに買って大丈夫かな?」という確認のための手続です。財務デューデリジェンス(この会社はホントに儲かるのか?/儲かっているのか?)と法務デューデリジェンス(ヤバイ契約や訴訟がないか?)だけは小さい案件でもやっておくというのが一般的です。デューデリジェンスにどんな種類があって、それぞれどんなことをしているかという細かい内容については、また別の記事にしたいと思いますが、要するに「ホントはヤバイ会社じゃないよな?」ということを確認するための各種手続きです。マネジメントインタビューなども、DDのプロセスの中に含まれます。マネジメントインタビューの結果、管理体制についてゴニョゴニョだったり、最近の利益率低下についてモゴモゴしていたら、ああちょっとこれは割り引いて考える必要があるなとか、定量的な情報だけでなく、定性的な情報も含めて判断をしていきます。工場を見せてください、というようなサイトビジットなどもDDのプロセスに含まれます。

中途採用においては、「コイツ、ホントに採用して大丈夫か?」という確認の場になります。要するに、面接前後のプロセスです。職務経歴書に書いてある内容を面談で確認してみたり、適正試験を受けさせて異常がないかを確認したり、などです。外資系なんかだと、照会先に対して確認を行ったりもしますね。ちなみにですが、自分が転職する際に推薦状を貰えるような人を、ビジネス関係で一人でも作っておくというのは、転職を進めるうえで非常に強力な武器となりますので頭の片隅に置いておいてくださいね。

8.最終契約の締結・クロージング

売り手と買い手との最終の契約です。フィナンシャルアドバイザーに対しても報酬が支払われます。採用活動においては、内定を意味し、エージェント等に対しても報酬が支払われます。フィーの支払いは、入社後3ヶ月後支払とか半年後支払のこともあります。

転職希望者も商品の一部。高く売るには業界別の商品の売り方を知ること。

ほら、随分と似てましたでしょ?

取引金額が高額で、かつ、情報の非対称性がある商品を取り扱うマーケットは、みんなこんな感じになるんです。引っ越しをよくされたり、家を買われたりした方はよくわかるかと思いますが、不動産なんかも同じですね。案件が多すぎてよくわからないから仲介業者が間に入ったりとか、ただ紹介されるままに決めちゃうのは心配だから、周辺相場を確認したり、実際に現地に行ってみたりとか、その結果、決まったら価格に応じてフィーが支払われたりとか。みんな同じなんです。①案件が多すぎて選び切れない、②似たようなものでも微妙に違う、③相手と直接コンタクトを取る機会が限られている、④取引される金額がデカイ、こういう条件が揃うと、取り扱う商品が何であれ、だいたいこんな感じでブローカーが出てきて、ブローカーフィーを取るようなビジネスが出てくるんです。

このサイトを訪れる皆様は、経理職として転職を考えている人が多いかと思います。経理職だという特殊性はあるにせよ、まずは、大前提として、「中途採用市場」というマーケットにおける「商品」なんです。非対称性があって取引金額が大きい商品を取り扱うマーケットは、他にいくらでもあります。どのようなものが高値で取引されて、どのようなものが売れ残るのか、そこには一定の規則性があるんです。

さて、前回の記事からかなり時間が空いてしまいましたが、ここまで全部、前置きです。次回、中途採用のプロセスが、M&Aのプロセスに似るならば、どう動けば内定を取ることができるか?についてご案内します。

投稿者:

白賀

30代。 経理職で転職を繰り返し、現在某社でファイナンスを担当しながら、非上場のスタートアップ会社でCFOを勤めています。

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