経理で転職する際に使える資格・試験として、FASSがオススメだということを以前の記事で書きました。ただ、このままだと、前回の発言を真に受けてFASSの点数を職務経歴書等に書いてしまう人がいそうなので、どう役に立つかを、誤解を招かないようにきちんと説明しておこうと思います。
FASSは極めて実務家向けの試験
FASSの問題って見たことありますか?メチャクチャ実務家向けです。
例えて言うならば「事業所税の免税点は、市内の床面積合計が1000平方メートル以下と、もう一つは何か?」みたいな問題です。
答えは「市内の従業員数が100人以下」なんですけど、こういうのって、担当している人以外にとっては、ホント、どうでもいいような話じゃないですか。でも、関係する実務経験がある人は確実に答えることができる。こういう、比較的実務経験者であれば答えられるような「小ネタ」的なものが問題になっていることが多くて、点数と実務経験に見事なまでに比例する非常に良い試験なんです。この試験を作った人は、本当によく実務を研究して作ったと思います。頭が下がります。
だから、FASSのことを良く知っている人が採用サイドにいる会社であれば、「これで良い点数を取っている人は、それなりに実務をやったことがあるんだろうなあ」という感覚にはなります。
知名度が低いので、FASSの点数自体アピールしても、あまり意味はない。
ところがどっこい、経理って、ホントに古臭い世界なんです。新しく出てきたものなんて、しばらくは、誰も見向きしてくれないんです。せっかくみんなで頑張って作ったFASSですが、FASS自体の知名度は、まだまだどころか、ほとんど知られていないというのが実態です。したがって、FASSの得点自体をアピールしても、残念ながら、正直、あまり面接では高評価・好印象は得られません。
あ、ちなみに、古臭い会社でも、経産省とかから天下り役員を受け入れてたりするくらいの会社になると、逆に意外と浸透してたりしてます。いまだに天下りを受け入れちゃう国頼みという古臭い会社が、国が主導して作った先進的なFASSを早く使い始めるという、素晴らしき計画経済国家です。そういう会社は、教育に使うお金も余ってるという背景もありますけどね。
さて、そんなFASSを使った転職活動についてですが、一番もったいないのは、「実務経験は不足していますが、FASSでは高得点なんで、大丈夫です!」というような、FASSの点数に頼るようなアピールです。これは、「なんだかよくわからないけど、仕事後の時間に、仕事のための時間を使うことができる人のようだ」という印象くらいしか、与えることができません。もう本当に、もったいないオバケが出るレベルです。なぜか?
FASSの点数よりも、実務経験を優先してしまう面接官が多い。
経理業界は、実務経験者が優先して採用される業界です。FASSの点数がどうかという話よりも、具体的に何ができるか?という話が優先されるので、「点数は高いけどやったことはない」という人よりも、「経験したことがある」という人が優先されます。
残念ながら、経理職は、求人数に対して応募者数が常に上回っている状態が続いていますので、そのポストは経験者に取られてしまいます。その仕事以外の全ての実務ができるくらいでないと、逆転が難しいです。
FASSの問題が、どれだけ実務者向けかを面接官が理解していない。
上にも書きましたが、経理は保守的な業種です。経理で偉くなった人のうち、しっかりと勉強している人なんて半分いるかいないかです。ファイナンスでMBA取った人とか、公認会計士とかが財務部長とか経理部長になっているケースなんて、せいぜい全体の1~2%だと思います。もっと少ないかもしれません。
では、残りの人達は、どうやって偉くなっているか。
酒とタバコと責任転嫁です。
酒は、上司や銀行との付き合いや情報収集で、タバコは、社内の情報収集。大きなミスの挽回がしにくい職種ですので、責任転嫁の力も重要です。ゴルフがここに追加されることもあります。
こういう人は、「細かいことまでは分からないけど(部下から概要の報告は受けているので)だいたい理解できている。細かいことなんて会計士や税理士にその時聞けばいい」と考えています。そして、同時に、高い確率で「うちは特殊なんだから、机の上で勉強ばかりしてた頭でっかちは使えない」と考えています。
この考え方自体、必ずしも誤りではなく、頷ける部分もあるんですが、とにかく、自分はゴリゴリ勉強せずとも要領良く情報収集してきたという自信がある分、頭でっかちな人を低く評価しがちです。
これは「自己投影効果」という、マネジメント研修で必ず習う、有名な評価バイアスの一つです。こういう人も、マネジメント層に入るときに、必ず人事部から普通に評価しようとするとこうなりがちだから気を付けて下さいね、って言われてるはずです。
でもね、人間ですから、気を付けて下さいねって言われているとき以外は忘れてしまうんですよ。毎日こういう評価バイアスと戦いながら暮らすのって、結構キツいですよ?だって、日々そういう人をどうにかこうにか蹴散らして高いポジションを得てきてるわけですから。
と、まあ、話がややそれましたが、こうした理由で、試験の点数頼みというアプローチは、非常にリスクがあるんです。
ちゃんと勉強しているなら、少しでもカスってたら「実務経験あり」と言ってしまえ!
当サイトがオススメするアプローチは、これです。少しでもカスってたら、実務経験アリって言っちゃえば良いんです。
事業所税の納付書のファイリング(提出って意味の方ではなくて、社内で納付書の控えを保管しましょうの方ですよ)をしたことがあれば実務経験あり、事業所税の期末の引当額の資料を見たことがあったら実務経験あり、オフィス賃料の請求書を見たことあったら実務経験あり、事務所内の人員数を知ってたら実務経験あり。もう、そんなノリで良いんです。
ただし、FASSの勉強を通じて仕入れた知識を元に、「これは実務経験ありにしてしまえ」と思った項目について、ちゃんと調べるようにしてください。
いろいろなことがわかると思います。ああ、床面積は、専有部分だけではなく共有部分も含むんだなとか、共有部分面積を確認するために、ビルのオーナー、貸主等に共用床面積を聞かなきゃいけないんだな、とか。免税点の判定は、事業年度末なんだな、とか。同族会社がいたら、含めて判定しないといけないんだな、とか。
そうしたら、想像つくじゃないですか。うちの会社は3月末決算だけど、3月末決算の会社ってそれなりに多いから、ビルオーナー側も質問がたくさんきて大変だろうなとか。向こうも忙しいだろうから、なかなか連絡が返ってこないだろうなとか。
そしたら、面接で言ってしまえば良いんですよ。「毎年期末に会社が契約しているビルに共有床面積を聞いていたんですけれども、なかなか返してくれなかったりで、期末後の忙しい時期に回収確認をしないといけなくて、面倒ですよね、あれ。そうは言っても申告書なので、すごく難しい仕事みたいに聞こえてしまうんですけれども、部分部分は簡単な仕事の積み上げだったりするので、そういう簡単だけど手間な仕事をリストアップしてパートさんにお願いするように少しずつ変えたんですよ」って。ゼロベースで作り上げた適当なストーリーですけど、こう言われると、ちゃんと仕事してたっぽいさ、出てきません?
面接官がアホっぽかったら、自信を持って説明したらいいんです。会社側だって、全社で唯一の産休を取った人を社員紹介で出したりしちゃうわけですから、お互いさまですよ。笑